モクジ

● 短編 --- 上位世界でのあるネット界隈での話 ●

 さてさて、この世界ではない違う世界、上位世界と呼ばれている世界がありまして、その世界には下位世界で死んだ人間が転生する場所があるんですよ。いわゆる天国というのに似ておりますが、一般的に知られている天国と違いまして、魂ではなく受肉しての転生なもんですから、生前とは容姿や性別がまるっきり変わってしまうことがある上、子供からやり直しになるって寸法です。そんなわけで転生した人間はそりゃもう大変で。みんなおぎゃーっと生まれた瞬間から生前の記憶をもっているもんですから、子育ては下位世界と比べると圧倒的に楽になるらしいんですがね。
 その上位世界では生まれてきた子どもは等しく転生者なわけですが、人間どうしても仲間がほしくなるらしいですね。自分と同じ下位世界、自分と同じ国で生きた人間を捜してしまうんですよ。
 少し前は難儀していたそうですが、昨今はインターネット網が発達していますからねえ。ネット掲示板なんていうのを使って前の世界について語り合う人が増えてきてるんだそうですよ。


** 生まれ変わってからの衝撃体験を報告するスレ **




 不惑を超えたのに赤ちゃんプレイ。



 あるあるw 最初の難関だよね。



 戦争で先に死んだ上官が兄になってた。



 感動の再会だな。



 十五で死んだ娘が俺の母親になってました……



 おめでたいんだかそうでないんだか判断に困るな。



 俺の家族が全員マーマママー世界からの転生者で俺の入ってたプププッカ教とめちゃくちゃ険悪で宗教戦争してたリュルク教の信徒だったと気づいたときの絶望感。



 家庭内宗教戦争勃発だな。



 せっかく同郷の人間ばっかなのに宗教は世知辛いな。
 改宗したの?



 俺は死んでもプププッカ神に従う!



 間をとってスパモン教徒になりゃいいのに。



 関係ないにもほどがあるだろw



 自分の股についてたもんがついてなかった。
 泣いた。



 性転換はきついよなあ。
 俺の嫁さんなんかだと生前オカマだったから受肉して女になってたことに大歓喜だったが。



 待て、お前はオカマが嫁さんでいいのか。



 今は女だし。
 それにオカマの方がそんじゃそこらの女より女らしくていいんだぞ。



 魔法使う人がいると知ったときは衝撃だった。
 しかもみんなそれをふつうに受け入れてるし。



 お前んとこ魔法なかったの?



 空想の中でならあったが、現実で使える人間がいたら間違いなく研究のために解剖されてる。



 むしろ俺は機械文明にびびった口だな。
 なんなの馬より走る鉄の箱って。鉄の塊が空を飛んでるし。
 俺が生きてた頃はお馬さんが重要な足だったのに。



 その割にネット使いこなしてんじゃん。



 書き込みできないと寂しくて死ぬ。
 元の世界が皆ご長寿で死期も数十年単位で分かれてるから仲間がほぼいない。
 チェア世界掲示板は俺の心のオアシス。 



 自分の転生者だという人間が数百人単位でいるのは衝撃だった。
 確かに有名人だったが、前世を騙る人間がいるとは……



 あー、でも元の世界でも前世がナポレオンとか前世が卑弥呼とか偉人の名前騙ってる奴いたからなぁ。
 証明しようがないと高をくくって騙りまくってるんだろうな。 
 


 単にパラレルワールドとかじゃないの?



 異世界同位体が存在する並行世界の住人は同一の上位世界に転生することはできないbyウィキペ
 つまり単なる同姓同名はいても同じ人間は二人はいないはず。



 下位世界で長生きしすぎたせいで、こっちの上位世界に来た時に友達はとっくに成人してかなり年が離れてるし、肉体年齢同世代で精神年齢同世代がいないのがきつい。
 尋常小学校なんかで同じ下位世界出身の子にお前時代遅れだな、いつ生まれよとか言われるとジェネレーションギャップがきつすぎて……



 前世の嫁を探し当てたと思ったら俺十五歳、嫁四十歳、再婚済み子持ち。
 来世でも結婚しようねって約束したのに。



 まあこの世界では初婚だし……



 元嫁さんだって今生でも子供を産みたかったんだろうさ。



 逆に俺はご近所のじいちゃんが元嫁待って、五十まで独身だったことが衝撃だったな。
 しかも年齢が原因でじいちゃん振られてた。



 適度な諦めって上位世界では大事だと思うんだ。
 同じ上位世界に生まれ変われない場合もあるらしいし。



 私の場合、何よりも衝撃的だったのは世界が平和だったことかな。
 井戸に毒が混入される危険もないし、夜に出歩いてもまあ安全だし、うちの近辺が平和ボケコミュニティがあるせいか護身術すら使えない人がいっぱいいた。
 寝てるときでもナイフと銃を近くに置いてた生活からすると考えられない。



 むしろどんな物騒な前世だったんだよ。



 そういえば同じ下位世界出身だと盛りあがったら生まれた国の情勢が違いすぎて別の下位世界の人間との方が話が合ったことがあった。
 寒さの厳しい厳格なカースト制の国とゆるゆる南国で島民すべて親戚で仲良しな国だと住む世界が違いすぎた。
 正しくカルチャーショック。



 っつか根本的に皆前世持ちということに心底びっくりだよ。
 周りの言語が分かってコミュニケーションとれるまでは、自分だけが選ばれしなんちゃらだと思って真剣に悩んでたのに全くそんなことはなかった。



 厨二病w



 うるせー、皆通った道だろ!?



 そうか?



 そんな風には思わなかったけどなあ。



 え、嘘、俺だけ? 冗談だよね?



 衝撃と言えば、自分の死後十年後に来た後輩に、俺が前世で晩年に書いてた自分用の手記がなんか小説化されて映画化されて大ヒットしてましたファンでしたとか言われたのが今のところ人生最大の衝撃。
 俺と一緒に燃やしてって言ったのに……!



 何書いてたの?



 三島由紀夫ばりに自分に酔った自伝。
 悲劇的な人生をけなげに諦めず懸命に生きた俺! みたいな。
 美化500%で盛りに盛った。
 死ぬ直前にやっぱりこれ他人に見られたら死んでも死にきれないと思ったけどもったいないから捨てられなくて一緒に納棺してくれって家族に頼んだ。



 見るなよ、絶対に見るなよ! って感じだな。遺族よくやった。



 すでに死んだ人がどうなったとか、自分が死んだあとどうなったとか知れるというのもここだと当たり前だけどすごいことだよね。



 恥ずかしくてもう一度死ねることも多いけどな。









 ってな感じで、各々が新しい生活を楽しんでいるようです。
 興味がある方は、いろんな掲示板をのぞかれてはいかがでしょうか?
 前世の話や今の話、あるいは来世の予想などでもにぎわっているようです。
 人間、話さなければ死んでしまうとはよく言ったものですね。
モクジ
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